レコメンドに投資してきたのに、 なぜ伸び切らないのか

ECの運営を続けていると、ある時期から「なんとなく頭打ち感」を覚えることがある。
レコメンドエンジンは入れた。表示ロジックも改善した。A/Bテストも回した。クリック率の数字は悪くない。なのに、購買につながる率が伸びない。
回遊は起きているのに、新しい商品への広がりが弱い。原因を探ると、「表示位置が悪い」「商品データが足りない」「UIを見直すべきだ」という議論になりやすい。
だが、もう一段深く問うてみてほしい。
今の顧客に対して、 「過去の行動をもとにしたおすすめ」 を出し続けることで、 本当に次の購入に進めているか。
「過去に最適化」 されているほど、 「今の意図」 から外れる
従来型レコメンドの多くは、過去の閲覧履歴・購買履歴・類似顧客の行動パターンをもとに動いている。
この仕組みは、顕在的な需要には強い。定番商品のリピートや、同カテゴリ内の比較検討を促すには向いている。
ただし、顧客の関心が変わる局面には弱い。わかりやすい例が家電だ。
炊飯器を買った顧客に、次も炊飯器を勧めても意味がない。すでに買っているからだ。その人が次に探しているのは、保存容器かもしれないし、弁当用品かもしれない。過去購買に忠実であるほど、現在の購買意図から遠ざかっていく。
ファッションECでは、このズレがさらに起きやすい。
半年前に黒のシンプルなジャケットを買ったユーザーに、今回も似た雰囲気の商品を並べる。アルゴリズムとしては正しい。だがその人が今探しているのが「少し柔らかい印象に変えたい」「春から職場の雰囲気が変わったので、軽やかに見せたい」なら、その提案はずれてしまう。
問題は精度ではない。参照しているデータが「過去の自分」だということだ。
自社のレコメンドは、 顧客の"今の気持ち"に応えられているか? それとも、 半年前・ 一年前の購買データに引きずられていないだろう か?
偶然の発見がなければ、 ECでのショッピングは飽きられる

もう一つ、無視できない問題がある。レコメンドが過去行動に近づくほど、顧客は既存の嗜好パターンの中を繰り返すことになる。似た商品は見つかる。だが新しい選択肢は広がりにくい。これは体験の問題であり、同時に売上の問題でもある。既存需要 of 刈り取りはできても、新しい需要が育たないからだ。
モバイルEC環境の実証研究(ACM, 2019)では、レコメンドにおける「セレンディピティ(思いがけない発見)」はユーザー満足度に有意な影響(&beta=0.305)を持つことが示されている。
単に関連商品を正確に返すよりも、「思いがけない出会いがあった!」という顧客体験を設計できるかが、満足度の差を生むのである。
ファッションECで重視されているのは、 商品ではなく 文脈だ
特にファッションECでは、顧客が探しているのは商品スペックよりも文脈であることが多い。
「ワイドパンツに合う、堅すぎないオフィスカジュアルが欲しい」「郊外デートで着られる、甘すぎないワンピースを探している」「梅雨でも重たく見えない通勤コーデを組みたい」。
これらの問いの中にあるのは、TPO、気分、避けたい失敗、なりたい印象だ。つまり、その商品を欲しくなる理由や意図である。
しかし従来型レコメンドが見ているのは主に何を見たか・何を買ったかだ。なぜ今それを探しているのかは、履歴には残らない。
2024年にConstructorが米英の消費者896人を対象に実施した調査では、44%が「欲しい商品を見つけるまでに3分以上かかる」と答え、42%は「カテゴリとしては合っているが、自分の好みや期待には合っていない」と感じている。
さらに44%は、自分がよく使うサイトでさえ「自分を理解していない汎用的なレコメンドしか来ない」と答えた。
42%
カテゴリは合っているが
自分の好み・期待に合わない
44%
よく使うサイトでも
汎用的なレコメンドしか来ない
次に必要なのは、 購買前の意図データを取り にいく ことだ
繰り返しになるが、レコメンドの改善だけを続けると、どこかで限界に当たる。それは、参照しているデータが「購買後の履歴」だからだ。購買を動かすために本当に必要なのは、購買前の意図データだ。
顧客が検索窓に入れた自然な言葉、商品ページで長く止まったポイント、比較検討のときに気にしていた条件、離脱前に打ち込んだ最後のクエリ。こうしたデータが取れていれば、なぜ買わなかったのかが見えるようになる。何を出せば次に進めたのかも分かる。そして、その知見はレコメンド改善だけでなく、商品訴求・特集設計・導線改善にまで活かせる。
ここで弊社のAI検索サービス「genser」が活きてくる。弊社のgenserは単なる検索改善ツールではない。顧客が自然な言葉で入力した問いから、意図と文脈を受け取り、購買前データを継続的に取得できる接点として機能する。
「ワイドパンツに合うオフィスカジュアルが欲しい」「梅雨でも軽やかな通勤コーデ」。こうした言葉がそのまま入力され、そのまま意図として処理される。
そして、そのデータの蓄積が、今まで見えていなかった顧客の需要を可視化する。どのシーン需要が高まっているか。どの条件で迷いが起きているか。どの表現なら選択が進みやすいか。これらは、今後の施策判断に直接使えるデータだ。
まとめ
レコメンドは今後、顧客体験に合わせてさらに進化することが予想される。過去の行動を最適化し続けるだけではなく、いかに購買前のデータを蓄積し、それに基づいてレコメンドすることができるか。重視するべき部分はそこである。
次回は、その「意図データ」がなぜ次のEC運営資産になるのかを、具体的に見ていく。
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出典
- ACM(2019):「How Serendipity Improves User Satisfaction with Recommendations? A Large-Scale User Evaluation」
- Constructor(2024):「What 896 Consumers Had to Say About Product Discovery Time, and How to Fix It」
従来型レコメンドの限界と進化
レコメンドのクリック率は悪くないのに、購買につながらない。関連商品は出せているのに、回遊が浅い。その違和感の正体は、UIや運用の問題ではないかもしれない。従来型レコメンドは「過去の反応」を最適化する仕組みであり、「今の意図」には構造的に届きにくい。ファッションECを中心に、その限界と次の打ち手を整理する。
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レコメンドに投資してきたのに、 なぜ伸び切らないのか
ECの運営を続けていると、ある時期から「なんとなく頭打ち感」を覚えることがある。
レコメンドエンジンは入れた。表示ロジックも改善した。A/Bテストも回した。クリック率の数字は悪くない。なのに、購買につながる率が伸びない。
回遊は起きているのに、新しい商品への広がりが弱い。原因を探ると、「表示位置が悪い」「商品データが足りない」「UIを見直すべきだ」という議論になりやすい。
だが、もう一段深く問うてみてほしい。
今の顧客に対して、 「過去の行動をもとにしたおすすめ」 を出し続けることで、 本当に次の購入に進めているか。
「過去に最適化」 されているほど、 「今の意図」 から外れる
従来型レコメンドの多くは、過去の閲覧履歴・購買履歴・類似顧客の行動パターンをもとに動いている。
この仕組みは、顕在的な需要には強い。定番商品のリピートや、同カテゴリ内の比較検討を促すには向いている。
ただし、顧客の関心が変わる局面には弱い。わかりやすい例が家電だ。
炊飯器を買った顧客に、次も炊飯器を勧めても意味がない。すでに買っているからだ。その人が次に探しているのは、保存容器かもしれないし、弁当用品かもしれない。過去購買に忠実であるほど、現在の購買意図から遠ざかっていく。
ファッションECでは、このズレがさらに起きやすい。
半年前に黒のシンプルなジャケットを買ったユーザーに、今回も似た雰囲気の商品を並べる。アルゴリズムとしては正しい。だがその人が今探しているのが「少し柔らかい印象に変えたい」「春から職場の雰囲気が変わったので、軽やかに見せたい」なら、その提案はずれてしまう。
問題は精度ではない。参照しているデータが「過去の自分」だということだ。
自社のレコメンドは、 顧客の"今の気持ち"に応えられているか? それとも、 半年前・ 一年前の購買データに引きずられていないだろう か?
偶然の発見がなければ、 ECでのショッピングは飽きられる
もう一つ、無視できない問題がある。レコメンドが過去行動に近づくほど、顧客は既存の嗜好パターンの中を繰り返すことになる。似た商品は見つかる。だが新しい選択肢は広がりにくい。これは体験の問題であり、同時に売上の問題でもある。既存需要 of 刈り取りはできても、新しい需要が育たないからだ。
モバイルEC環境の実証研究(ACM, 2019)では、レコメンドにおける「セレンディピティ(思いがけない発見)」はユーザー満足度に有意な影響(&beta=0.305)を持つことが示されている。
単に関連商品を正確に返すよりも、「思いがけない出会いがあった!」という顧客体験を設計できるかが、満足度の差を生むのである。
ファッションECで重視されているのは、 商品ではなく 文脈だ
特にファッションECでは、顧客が探しているのは商品スペックよりも文脈であることが多い。
「ワイドパンツに合う、堅すぎないオフィスカジュアルが欲しい」「郊外デートで着られる、甘すぎないワンピースを探している」「梅雨でも重たく見えない通勤コーデを組みたい」。
これらの問いの中にあるのは、TPO、気分、避けたい失敗、なりたい印象だ。つまり、その商品を欲しくなる理由や意図である。
しかし従来型レコメンドが見ているのは主に何を見たか・何を買ったかだ。なぜ今それを探しているのかは、履歴には残らない。
2024年にConstructorが米英の消費者896人を対象に実施した調査では、44%が「欲しい商品を見つけるまでに3分以上かかる」と答え、42%は「カテゴリとしては合っているが、自分の好みや期待には合っていない」と感じている。
さらに44%は、自分がよく使うサイトでさえ「自分を理解していない汎用的なレコメンドしか来ない」と答えた。
かかる
自分の好み・期待に合わない
汎用的なレコメンドしか来ない
次に必要なのは、 購買前の意図データを取り にいく ことだ
繰り返しになるが、レコメンドの改善だけを続けると、どこかで限界に当たる。それは、参照しているデータが「購買後の履歴」だからだ。購買を動かすために本当に必要なのは、購買前の意図データだ。
顧客が検索窓に入れた自然な言葉、商品ページで長く止まったポイント、比較検討のときに気にしていた条件、離脱前に打ち込んだ最後のクエリ。こうしたデータが取れていれば、なぜ買わなかったのかが見えるようになる。何を出せば次に進めたのかも分かる。そして、その知見はレコメンド改善だけでなく、商品訴求・特集設計・導線改善にまで活かせる。
ここで弊社のAI検索サービス「genser」が活きてくる。弊社のgenserは単なる検索改善ツールではない。顧客が自然な言葉で入力した問いから、意図と文脈を受け取り、購買前データを継続的に取得できる接点として機能する。
「ワイドパンツに合うオフィスカジュアルが欲しい」「梅雨でも軽やかな通勤コーデ」。こうした言葉がそのまま入力され、そのまま意図として処理される。
そして、そのデータの蓄積が、今まで見えていなかった顧客の需要を可視化する。どのシーン需要が高まっているか。どの条件で迷いが起きているか。どの表現なら選択が進みやすいか。これらは、今後の施策判断に直接使えるデータだ。
まとめ
レコメンドは今後、顧客体験に合わせてさらに進化することが予想される。過去の行動を最適化し続けるだけではなく、いかに購買前のデータを蓄積し、それに基づいてレコメンドすることができるか。重視するべき部分はそこである。
次回は、その「意図データ」がなぜ次のEC運営資産になるのかを、具体的に見ていく。
出典